建設業の許可取得を検討する際に必ず考えなければならないのが「専任技術者」の配置です。建設業許可を取得する営業所には必ず専任技術者を置く必要があるため、要件を満たすための人材を用意しなければならないというハードルがあります。
また、建設業許可は取得後も条件を満たした状態を維持し続けなければなりません。建設業許可を取得し事業を行っている最中に条件の維持がでないと、許可の取り消しになってしまいます。
そのため、専任技術者は常に配置しておかなければなりません。退職や異動などが生じても人員配置が適切に行われるよう、解説する専任技術者に関する要件を確認し、しっかりと計画を立てておくようにしましょう。
専任技術者とは?
建設業許可の営業所には専任技術者を必ず置く必要があります。また、専任技術者は1つの営業所だけではなく、各営業所への配置が求められており、各営業所に専属で常勤として仕事の従事する必要があります。
専任技術者の役割は主に営業所内の業務に求められます。具体的には、建設工事の発注者と工事内容の技術的な面で交渉や確認を行い、工事の見積書作成や契約の締結を担当します。
建設工事では規模に関わらず契約書を締結し交付することが建設業法に規定されているため、経営上重要な役割です。
このように、専任技術者は営業所内で重要な役割に担うために、ほかの営業所や会社と掛け持ちをすることは認められていません。発注者に技術的な相談や見積もりを依頼された場合、ほかの職場に専任技術者が行ってしまうと対応が難しくなるからです。
専任技術者になるための要件
専任技術者になるためには、建設業法で規定されている一定の資格や経験がなければいけません。資格や建設業での経験は、建設業の種類(一般と特定)や、建設業種ごとに細かく定められています。
専任技術者に求められる一般的な要件
専任技術者の要件として何が求めらているのかは、一般建設業と特定建設業のどちらの許可を取得するかや、建設業それぞれの業種に応じて異なります。
また、専任技術者は許可を受けようとしている営業所ごとに配置されていなければなりません。これらの要件を満たしていることを証明するためには、建設業許可申請時に資料も用意する必要があります。
許可の種類や業種、担当する営業所が定まっていない会社は、まずどの許可を取得する必要があるのかを理解する必要があります。
まず、知事許可と大臣許可のどちらが必要かについて検討しましょう。営業所が1か所のみの場合は知事許可で良く、複数の営業所かつ都道府県にまたがっている場合は大臣許可が必要になります。
次に、営む建設業の業種を確認しましょう。建設業の業種は28種に分類され、どの工事の許可が必要なのかを検討する必要があります。
- 土木工事業
- 建築工事業
- 大工工事業
- 左官工事業
- とび・土工工事業
- 石工事業
- 屋根工事業
- 電気工事業
- 管工事業
- タイル・レンガ工事業
- 鋼構造物工事業
- 鉄筋工事業
- 舗装工事業
- しゅんせつ工事業
- 板金工事業
- ガラス工事業
- 塗装工事業
- 防水工事業
- 内装仕上工事業
- 機械器具設置工事業
- 熱絶縁工事業
- 電気通信工事業
- 造園工事業
- さく井工事業
- 建具工事業
- 水道施設工事業
- 消防施設工事業
- 清掃施設工事業
それぞれに必要な条件が設定されているため、個別に確認が必要です。
一般建設業と特定建設業のどちらの許可が必要かは、事業の形態によって異なります。特定建設業となるかどうかの判断は、発注者から直接工事を請け負った元請会社が、請け負った工事を下請けに出す際の金額で判断されます。つまり、特定建設業となるかどうかは元請会社のみの問題です。
下請けとして受けた工事を再度下請けに出す場合は、特別な金額の制限はありません。最初の下請会社が、次の下請会社に工事を出す場合は、金額に関係なく一般建設業の許可を受ければ問題ありません。
それぞれの建設業許可に応じた専任技術者の要件をチェックする
工事発注者から元請として工事を請け負い、さらにその工事を総額3000万円以上(建築一式工事の場合は4500万円以上)で下請に出す際は、特定建設業の許可を取得する必要があります。
一方、3000万円未満(建築一式工事は4500万円未満)で元請工事を下請けに発注する場合や、そもそも元請として工事を請けていない会社は一般建設業の許可で問題ありません。
次に、一般建設業と特定建設業の許可それぞれの要件を確認しておきましょう。
一般建設業の要件
一般建設業では、以下の3つの要件のどれかをクリアしている人がいる必要があります。
- 要件①許可を受けようとする建設業種に応じて定められた国家資格等を有する者
- 要件②許可を受けようとする建設業種について10年以上の実務経験を有する者
- 要件③許可を受けようとする建設業種に応じて定められた学歴を有し、一定(3年以上もしくは5年以上)の実務経験を有する者
ここで言う「実務経験」とは、許可を受ける建設業種に関する技術的なあらゆる職務経験のことを指します。具体的には、以下の経験のことです。
- 建設工事の施工に関する指揮・監督
- 建設工事の施工
- 土工、見習いへの従事経験
- 建設工事の発注に際して設計技術者として設計に従事した経験
- 建設工事の発注の際に現場監督技術者として現場を監督した経験
注意しなければならないのは、これらの技術的な要素がない現場での経験は職務経験とは認められないということです。例えば、単なる工事現場での雑務や技術的な要素がない事務経験は職務経験としては認められないため、注意が必要です。
特定建設業の要件
特定建設業では、一般建設業よりも高度な資格や経験が必要になるため、専任技術者に課される要件も厳しくなっています。具体的には、以下の2つの要件のうち、どちらかをクリアしている人を営業所に設置しておく必要があります。
- 要件①許可を受けたい建設業種に応じて定められた国家資格等を有した者
- 要件②一般建設業の要件クリアしており、かつ指導監督的経験がある者
要件②に関しては、一般建設業の要件のうちいずれか1つをクリアしており、かつ、許可を受けたい建設業種の分野において、元請として4500万円以上の工事を2年以上指導監督した経験がある人が対象となります。
指導監督的経験とは、建設工事の設計や施工などの工事全般にわたり工事現場主任や現場監督者のような立場で指導監督した経験のことを言います。
また、要件②の「指揮監督経験」は指定建設業での経験は除かれています。指定建設業とは、以下の7業種が定められています。
- 土木工事業
- 建築工事業
- 電気工事業
- 管工事業
- 鋼構造物工事業
- 舗装工事業
- 造園工事業
これらの指定建設業においては、1級の国家資格等の有資格者でない限り、専任技術者になることはできませんので、注意が必要です。
専任技術者の要件を満たしていることを証明するための資料
建設業許可を取得する段階では、専任技術者の要件を満たしていることを書類で証明しなければなりません。建設業許可の申請においては書類審査となるため、要件を満たしているか否かは全て書面によって証明する必要があるからです。
そのため、資格の証明であれば資格者証等を提出しなければならず、書類の提出ができなければ審査を通過することはできません。
一方、資格の証明とは異なり、実務経験の証明は資格証明書の提出のように簡単にはいきません。実務経験の証明は請負工事の契約書や、業務を経験した際に在籍していた会社での就業を証明する資料等、複数の馴染みのない資料を用意することになります。
実務経験の証明は書類が多岐に渡るため、こうした書類を集めるには大変労力がかかることが予想されます。
とは言え、資格が無い場合は実務経験で証明するしかありませんので、あらかじめどのような書類が必要になるのか確認し、計画的に書類を収集しておきましょう。
なお、必要書類については、建設業許可を取得する地域に応じて異なる場合がありますので、事前に役所のホームページなどを確認しておきましょう。
資格の証明
資格の証明は最も必要書類が少なく、手間がかからない方法です。
国家資格等の資格保有者は、専任技術者の要件を満たす資格証明書の原本を提示し、コピーを提出するだけで問題ありません。
建設業許可の審査は全て書類審査になるため、資格を有していても書類で証明ができないと審査を通過できません。
学歴要件を満たすことの証明
建設業許可の中には、ある一定の学歴を満たすことが要件になっているものがあります。
許可を受けようとする業種ごとに指定された学歴があり、学歴要件を満たす場合は、学校の卒業証明書の原本を提示し、コピーを提出することで証明できます。
実務経験の証明
実務経験の証明は最も書類の収集に手間がかかります。
まず前提として、実務経験は過去のどのタイミングでの経験でも関係ありません。つまり、今回の建設業許可を申請する会社での実務経験である必要はなく、前職や前々職の経験であっても、建設業許可の要件を満たす領域での経験であれば問題なく経験として加算できます。
また、実務経験を積んだ会社は1社である必要はなく、複数の会社での経験を通算して10年(もしくは3年や5年)になれば問題ありません。
実務経験は、以下の2つを同時に満たす期間行われていることが確認できなければなりません。
- 許可を受ける建設業種での実務経験があったか
- その期間会社に在籍していたか
その他の証明事項
その他の証明事項として、指導監督的経験の証明や、営業所に専任となっていることの証明を行う必要があります。
指揮監督的経験の証明は契約書、工事請書、注文書等のコピーなどによって、営業所に専任となっていることの証明としては住民票と健康保険者証などにより証明します。
これらの書類により常勤であること、特定の営業所に専業で従事していることを証明しましょう。