一言で「工事」と言っても、様々な種類の工事が存在します。大きな規模の土木工事もあれば、一部の建物の修繕などを行う比較的小規模な工事もあるでしょう。
では、これらの工事はすべて「建設工事」に該当するのでしょうか。今回は、多種多様な工事がどのような基準で分けられているのか、建設工事に該当する・しないはどのような要素で決まるのかについて解説します。
工事の定義
「○○工事」という名称は世の中に多く存在しますが、建設業を営む際に準拠すべき定義は建設業法による定義です。ここでは、国の資料をもとに説明してきます。
工事とは
実は、「工事」自体には建設業法の定義があるわけではありません。国土交通省では、以下のように工事の定義を出典を用いて説明しています。
出典 | 意味 |
広辞苑 | 土木・建築などの作業。「道路-」「-現場」 |
明鏡国語辞典 | 建築や土木の作業。「-現場」 |
デジタル大辞泉 | 土木・建築などの実際の作業。「道路を工事する」「工事現場」 |
振動規制法(昭和51年法律第64号) | この法律において「特定建設作業」とは、建設工事として行われる作業のうち、著しい振動を発生する作業であつて政令で定めるものをいう。 |
会社計算規則(平成18年法務省令第13号) | 工事契約 請負契約のうち、土木、建築、造船、機械装置の製造その他の仕事に係る基本的な仕様及び作業内容が注文者の指図に基づいているものをいう。 |
一般的には、土木や建築などの作業を行うことを工事と呼んでいます。
建設工事とは
工事と異なり、建設工事には明確な定義が存在します。
建設業法第2条1項では、「土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう」として、土木一式工事や建築一式工事、大工工事など29種類の工事を建設業法上の「建設工事」として定義しています。
建設工事を理解する上で重要なのが、「一式工事」と「専門工事」の違いです。
一式工事は土木一式工事と建築一式工事の2つだけで、基本的に元請け業者が行う建設工事だと考えましょう。建設業法上は、「大規模、かつ施工内容が複雑な工事を総合的な企画・指導・判断・調整のもとに行うもの」と定義されています。
一式工事は専門工事と異なり、1つの専門的、部分的な工事として施工することは難しい工事です。
一方、専門工事とは、一式工事以外の建設工事のことを言います。専門工事は基本的に下請け業者が行う工事であり、27種類に細かく分類されます。
公共工事とは
「公共工事」とは、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」の第2条第2項によって、「国、特殊法人等又は地方公共団体が発注する建設工事」と定義されています。
つまり、民間企業ではなく、国や自治体など公的機関が発注する工事を公共工事と呼ぶのです。
建設業法においては、技術者の専任配置が必要な工事として「公共性のある施設若しくは工作物又は多数の者が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事」と定められています。
また、経審の受審が必要な工事として「公共性のある施設又は工作物に関する建設工事」が定められています。
公共工事は同法律のほか、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」によっても同様の定義付けがされています。
建設工事に該当しない工事
工事であっても建設業法上の「建設工事」に該当しないものも多数あります。そこで、ここからは建設工事に該当するもの・しないものを分類してみましょう。
建設工事に含まれるもの
建設工事に含まれる工事は、例えば以下のようなものがります。
- 国から発注されたダムの築造作業
- 地方自治体から発注された公民館の建築作業
- 維持管理(委託)として行われる、道路の補修作業
国が発注したダム建造作業や地方の公民館建築などは建設工事に含まれることになります。また、道路の補修作業も維持管理として建設工事扱いになります。
建設工事に含まれないもの
一見建設工事のように見えますが、建設工事としては取扱われないものに以下の工事があります。
- 土木工作物の建設に用いるプレキャスト製品製造
- PFIで発注される運営業務(場合による)
- 維持管理として行われる、除草作業、除雪作業
- 設計業務、監理業務
土木工作物の建設に用いるプレキャスト製品の製造は直接的な工事とは切り離され、建設工事とは見なされません。
また、PFIで発注される運営業務も場合により建設工事とは見なされない場合があります。
維持管理として行われる除草作業や除雪作業、設計や監理業務も建設工事からは除外されます。
その他にも、消耗部品の交換や土地に定着しない動産に係る作業、調査、警備なども建設工事とは見なされません。
このように、メンテナンス工事は様々なものがありますが、場合によっては建設工事には含まれないことがあるので注意が必要です。
なぜ建設工事に該当する・しないが大事なのか
建設工事に該当する・しないを把握することはなぜ重要なのでしょうか。
実は、建設工事は建設業認可が必要なことがあります。
建設業の認可を得るためには、建設業界での「経営業務の管理者責任者としての経験」や「専任技術者としての実務経験」など、各種条件が必要となります。
建設業法で認められている作業以外でいくら経験を積んでも、認可を得るための経験年数としては加算されないため、いつまでも許可を取得できないことがあるのです。
当然、建設業者としての経験にはなるものの、効率的に建設業認可を得たい場合には時間を無駄にしてしまうでしょう。
建設業では建設業認可を受けなくても行える工事もあります。軽微な工事であり、請負代金が一件につき規定の発注金額以下であること、工事に値する円面積が規定以下であることなどを満たせば、許可なしに工事が可能です。
反対に大規模な工事を行う場合は、建設業許可を取得する必要があるため、建設工事の経験を積むことが求められます。
大きな建設工事を受注したいなら建設業許可を
これまで見てきたように、メンテナンス業務は建設工事に該当しません。そのため、比較的大きな金額でメンテナンス業務を受注しても、建設業許可の取得は必要ありません。
一方で、大規模な建設工事を受注したい場合は、建設業許可の取得を目指しましょう。建設業許可の取得には以下の4つの要件を満たす必要がありますので、事前に準備しておく必要があります。
- 「経営業務管理責任者」(経験のある役員等)の設置
- 各営業所の「専任技術者」(資格を有する技術者)配置
- 請負契約に関する誠実性と欠格事由の有無(直近の法令違反がないこと)
- 財産的基礎または金銭的信用
特に、上述した「経営業務管理責任者」や「専任技術者」には建設業での一定の経験が必要なため、いざ許可を取得しようとしても体制が整っていないこともあります。
財産的基礎も許可を取得する上でハードルとなります。この要件では、自己資本の額が500万円以上か資金調達能力が500万円以上であるなど、会社の財政基盤が問われます。
また、建設業許可は5年間有効で、5年ごとに更新が必要です。そのため、定期的に要件の審査が必要であるなど、申請だけでなく変更や更新の都度手間がかかる資格です。
複雑で手間のかかる建設業許可には、申請から定期的な変更・更新手続きまでサポートしてくれる行政書士に依頼することをおすすめします。
行政書士であれば、会社が許可を取得するために何をすべきか、どの書類が必要かなど、様々なアドバイスをしてくれるため、頼りになる存在です。