建設業許可の申請

建設業法上の「軽微な工事」に契約書は必要なのか

建設工事を請け負う際は契約書を交わし、契約内容に基づいて工事を行います。しかし、付き合いの長いお客さんであれば契約書なんて交わさないというケースもあるのではないでしょうか。また、契約書の作成は煩雑なため、普段は契約書を交わさず仕事をしているという人もいるでしょう。

確かに、他の業務であれば契約書を交わさず済むこともあるかもしれませんが、建設業では契約書の作成が極めて重要です。今回は、建設工事における契約書の役割と重要性を解説します。

建設工事を請け負う事業者が契約の際に行うべきこと

日本の法律では、契約は原則として口約束でも有効です。他方がもう一方に商品やサービスの購入を約束すれば、これだけで契約が成立していると見なされます。口約束でも有効なので、契約書を作成しなくても契約は成立しているのです。

これは建設工事や建設工事以外の請負契約であっても同様です。

しかし、建設工事は業態に特殊性があるため、契約の一般ルールについて定められている民法とは別に、建設業法で細かなルールが定められています。

工事において契約書の作成はリスクヘッジになる

建設工事は、発注者と請負者で建設に関するノウハウや知識に大きな差が見られます。建設業とは無関係の発注者であれば、工事が完了した際に見た目以外で工事のクオリティなどを評価するノウハウがありません。

一方で、建設業者は工事に関するノウハウや知識が豊富なため、もしかすると発注者の発注通りに工事をしなくてもバレずに済んでしまうかもしれません。口約束での契約の場合、このような当事者間で齟齬が後から発覚し、トラブルになってしまう恐れがあります。

また、建設業の契約金額は通常の売買に比べてかなり高額になり、工事の期間も長期に及びます。契約金額が大きいということは、その後のトラブルが起こりやすくなるとも言えます。

当初想定していたより工期が伸びてしまった場合どうするか、工事が途中で中止になった場合はどのように費用を負担するのかなど、よくあるトラブルにあらかじめ対策を講じておくことが求められるのです。

このように、建設業では通常の売買よりも大きな金額の契約を長期間に渡り結ぶため、他の分野よりもリスクが大きくなります。契約上のトラブルに備えるためには、受注ごとに契約書を作成しておくことが大切です。

建設業法上の契約書作成の根拠

建設業者が契約書を作成すべき根拠は、建設業法に明記されています。建設業法の第18条および第19条では、以下のように契約に関して規定されています。

第18条

建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない

第19条

建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

第19条の中で触れられている「書面」とは契約書のことです。つまり、工事の着工前に契約書を交付する必要があるのです。

建設業許可を受けていない業者も契約書は必要

ここまで、建設業の請負には契約書が必要であることを説明してきました。では、建設業許可を受けていない業者でも契約書の交付は必須なのでしょうか。

実は、建設業許可を受けているかどうかにかかわらず、建設業を請け負う際には建設業法第19条が適用されることになります。つまり、建設業許可未取得の業者であっても契約書の交付義務が発生しているということです。

ちなみに、建設業許可が必要ない工事とは、建設業法上「軽微な工事」と呼ばれているものです。具体的には以下の工事が該当します。

①建築一式工事については、工事1件の請負代金の額が1,500万円未満の工事または延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事

●「木造」…建築基準法第2条第5号に定める主要構造部が木造であるもの

●「住宅」…住宅、共同住宅及び店舗等との併用住宅で、延べ面積が2分の1以上を居住の用に供するもの

②建築一式工事以外の建設工事については、工事1件の請負代金の額が500万円未満の工事

これらの工事は建設業許可が必要ない軽微な工事とされており、許可未取得の業者であっても工事が可能ですが、契約書の作成は例外なく必要とされています。

契約書に記載すべき内容

契約書に盛り込むべき内容は建設業法に明確に列挙されています。具体的には、以下の内容を契約書に盛り込むべきとされています。

一 工事内容

二 請負代金の額

三 工事着手の時期及び工事完成の時期

四 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容

五 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

六 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め

七 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め

八 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更

九 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

十 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め

十一 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期

十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

十三 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容

十四 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

十五 契約に関する紛争の解決方法

十六 その他国土交通省令で定める事項

引用:建設業法|e-Gov

契約書の内容に迷ったら、まずは建設業法第19条を見返してみましょう。また、契約書は建設業法で定められているということのほかにも、建設業許可申請に必要な資料として重要視されていることから、契約時は必ず作成しておく必要があります。

建設業許可申請時は、これまでにどのような工事をしてきたか業者の実績を確認するため、契約書の提出が求められます。例えば、経営業務管理責任者として認められるためには経験を証明する書類の提出が必要ですが、この資料の中にも工事請負契約の契約書が含まれています。

今後、建設業許可申請をする予定がある会社は、必ず契約書は工事契約の度に作成・交付し、申請まで大切に保管しておいてください。

契約書を作成しなかったらどうなる?

契約書を作成しなかったらどのような不利益が考えられるのでしょうか。ここでは、行政処分、契約後のトラブルに焦点を当てて解説していきます。

行政処分が下される

契約書を作成しなかった場合のデメリットの一つ目は、行政処分が下されるリスクが生じるということです。

上述の通り、建設業法では工事の発注・受注の都度契約書を作成することが義務付けられています。もしもこれを守らなかった場合、建設業法違反と見なされてしまいます。

国土交通省では、契約書の作成をしなかった場合のみならず、契約書を実際に交付しなかっただけでも建設業法違反になるという見解が示されており、契約書の受け渡しは厳しく取り決めがなされています。

建設業法19条に違反すると行政処分が下され、建設業許可を現在持っている業者は許可を取り消されたり、今後更新ができなくなったりすることがあります。大きな工事を請け負っている会社にとっては、今後の大規模な工事を受注できなくなるため、非常に大きな損害となるでしょう。

契約後にトラブルが生じるリスク

冒頭でも説明したとおり、建設業は契約金額が大きいため、契約相手と後々トラブルになるリスクが大きい業種と言えます。

契約金額だけでなく、工期も通常の契約よりも長く、建設業者と注文者との間でノウハウや知識に偏りがあるという状況が発生するため、工事後の紛争リスクが非常に大きくなります。

例えば、追加工事が発生してしまい、工事費用が当初想定していたよりも高額になってしまった場合、発注者は最初の工事金額の中で業者にカバーしてもらいたいと考え、追加金額を支払わないと言いだすかもしれません。

一方、建設業者としては、追加費用分は相手方にしっかり請求したいと考えるでしょう。ここで契約書が作成されていなければ、当然紛争リスクに発展します。もし、追加の工事金額についてお金をいつまでにどのようなかたちで支払うのかの取り決めがなければ、お互いに困ってしまうでしょう。

建設工事を依頼する発注者が必ずしも良心的な相手であるとは限らないため、紛争リスクには常に気を配っておきたいところです。口約束では詳細な取り決めは不可能なので、法律で明記された項目をしっかりと含め、いざという時のための対処をあらかじめ契約書に落とし込んでおきましょう。

契約書の作成コストを削減したいなら行政書士に頼むのも一つの手

会社や自分で契約書を作成するのが手間に感じたり、作成の仕方がわからない場合は、契約書の作成自体を外部に依頼するのも一つの手です。

契約書の外注は、建設業の契約書作成や建設業許可などに詳しい専門家(行政書士)に依頼すると安心です。行政書士に頼めば、契約書作成はもちろんのこと、許可未取得の場合今後どのように許可を取得すればよいのかなど、様々な経営上のアドバイスを受けることが可能です。

会社個別の事情なども相談しながら作成代行が可能なので、困ったらまずは一度相談してみましょう。

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